大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行ケ)158号 判決 1992年2月25日

アメリカ合衆国オハイオ州四五四〇一 デイトン ビーオーボツクス 六〇八

原告

モナーク マーキング システムズ インコーボレーテツド

右代表者

ルドルフ ジエイ クライン

右訴訟代理人弁護士

中村稔

熊倉禎男

同弁理士

大塚文昭

田中伸一郎

東京都北区堀船四丁目一二番一五号

被告

株式会社新盛インダストリーズ

右代表者代表取締役

和田時男

右訴訟代理人弁理士

松田誠次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六二年審判第二八〇四号事件について平成元年二月二八日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文一、二項と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

1  特許第一二五七五五八号に係る発明

発明の名称 「レツテルはり付け機」

出願日 昭和五三年七月二八日(優先日 イギリス国 昭和五二年七月二八日)(特願昭五三-九一六二三号)

出願公告 昭和五八年三月二五日(特公昭五八-一五三七六号)

登録日 昭和六〇年三月二九日

訂正公告 昭和六〇年七月六日

特許権者 原告

2  無効審判請求(昭和六二年審判第二八〇四号)

請求人 被告

請求日 昭和六二年二月二六日

特許無効審決 平成元年二月二八日

二  本件特許請求の範囲第一項記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨

1  手持用ハンドルと、電気エネルギー源を保持する手段と、裏当て帯状材に剥離可能に付着したレツテルを有する複合ウエブのレツテル供給ロール体を保持する手段とを供えたハウジングと、

2  印刷されるべく選択したデータを入力するように前記ハウジングに取付けられたキーボードを備えた手段と、

3  印刷位置で一つのレツテルを印刷するための、前記電気エネルギー源によつて付勢される電気的に選択可能な印刷ヘツドを備えた手段と、

4  印刷したレツテルを前記裏当て帯状材から剥離する手段と、

5  この剥離手段に隣接して配置されたレツテルはり付け手段と、

6  印刷したレツテルを前記剥離手段のところで裏当て帯状材から剥離するとともに印刷したレツテルを前記レツテルはり付け手段に対してレツテルはり付け位置に前進させ、更に別のレツテルを前記印刷位置に進めるように、前記裏当て帯状材を前進させる手段と、

7  前記キーボードに接続され、該キーボードによつて入力された選択データのデータ表示を受取り且つ電気的に処理するようになつており、内部に前記選択データを記憶する手段を備えた、データ受取り及び処理手段と、

8  該データ受取り及び処理手段に電気的に接続され、レツテルの位置を表わす信号を発生し、データ受取り及び処理手段に出力して該手段を作動させ印刷の前に各レツテルを印刷ヘツドに対して整合させるための位置信号発生手段と、

9  前記データ受取り及び処理手段と前記電気的に選択可能な印刷ヘツドとを電気前に接続する手段と、

10  前記データ受取り及び処理手段に電気的に接続され、作業者によつて作動されるスイツチを含み、このスイツチの作動毎に前記記憶手段に記憶された選択データの表示を前記印刷ヘツドがレツテルに印刷するように前記データ受取り及び処理手段を作動させる手段と、

から成る手持ち式レツテルはり付け機。(1ないし10の番号は、便宜上付した。以後、右1ないし10の各構成をそれぞれ「構成1」、「構成2」、……、「構成10」という。)(別紙一参照。)

三  審決の理由の要点

1  本件発明の要旨は前項記載のとおり(特許請求の範囲第1項記載に同じ。)である。

2  特開昭四七-一〇〇二〇号公報(以下、「引用例一」という。(別紙二参照。)には、手持ち用の把持部と、保持テープに剥離可能に付着したラベルを有するラベル帯状体の巻上げ体を保持するラベル保持体とを備えた枠と、ラベルを前記保持テープから剥離する手段と、この剥離手段に隣接して配置されたラベルはり付け手段と、ラベルを前記剥離手段のところで、保持テープから、剥離するとともに、ラベルを前記ラベルはり付け手段に対して、ラベルはり付け位置に前進させるように、前記保持テープを前進させる手段とから成る手持ち式ラベルはり付け機が記載されている。

3  そこで、本件発明と、引用例一に記載されているものとを対比すると、引用例一に記載されている「把持部」「保持テープ」「ラベル」「ラベル帯状体」「巻上げ体を保持するラベル保持体」及び「枠」は、それぞれ本件発明の「ハンドル」「裏当て帯状材」「レツテル」「複合ウエブ」「レツテル供給ロール体を保持する手段」及び「ハウジング」に相当するから、本件発明は、以下の手段を備えている点で、引用例一に記載されているものと相違している。

(1) 電気エネルギー源を保持する手段、

(2) 印刷されるべく選択したデータを入力するように前記ハウジングに取付けられたキーボードを備えた手段、

(3) 印刷位置で1つのレツテルを印刷するための、前記電気エネルギー源によつて付勢される電気的に選択可能な印刷ヘツドを備えた手段、

(4) 印刷したレツテルを前記レツテルはり付け手段に対してレツテルはり付け位置に前進させ、更に別のレツテルを前記印刷位置に進めるように、前記裏当て帯状材を前進させる手段、

(5) 前記キーボードに接続され、該キーボードによつて入力された選択データのデータ表示を受取り且つ電気的に処理するようになつており、内部に前記選択データを記憶する手段を備えた、データ受取り及び処理手段、

(6) 該データ受取り及び処理手段に電気的に接続され、レツテルの位置を表わす信号を発生し、データ受取り及び処理手段に出力して該手段を作動させ印刷の前に各レツテルを印刷ヘツドに対して整合させるための位置信号発生手段、

(7) 前記データ受取り及び処理手段と前記電気的に選択可能な印刷ヘツドとを電気的に接続する手段、

(8) 前記データ受取り及び処理手段に電気的に接続され、作業者によつて作動されるスイツチを含み、このスイツチ作動毎に前記記憶手段に記憶された選択データの表示を前記印刷ヘツドがレツテルに印刷するように前記データ受取り及び処理手段を作動させる手段。

4  次に、右の相違点について検討する。

(一) 実開昭五一-一五二九九六号公報(以下、「引用例二」という。)(別紙三参照。)には、考案の詳細な説明に関する記載はないが、実用新案登録請求の範囲、図面の簡単な説明及び図面(第1図ないし第8図)からみて、引用例二には、以下の点が記載されているものと認められる。

すなわち、裹面に接着剤層が形成され、かつ、この接着剤層表面が剥離紙でシートされている原紙の表面に、少なくとも発駅から新しい目的地までの合計料金と乗越駅から新しい目的地までの不足料金を原紙に印刷するために、

(a) 電源を保持する手段、

(b) 印刷されるべく選択したデータを入力するように、前記ハウジングに取付けられたキーボードを備えた手段、

(c) 印刷位置で一つの精算券を印刷するための、前記電源によつて付勢される印刷ヘツドを備えた手段、

(d) 前記キーボードから成る入力部に接続され、該キーボードによつて入力されたデータを受取り、かつ、電気的に処理し、記憶するための入力制御部、主制御部、文字パターンメモリ及び印刷編集制御部から成る制御手段、

(e) 前記制御手段と前記印刷ヘツドを電気的に接続する手段、

(f) 前記制御手段に電気的に接続され、作業者によつて作動されるスタートスイツチを含み、このスタートスイツチの作動により、文字パターンメモリに記憶されているデータを印刷ヘツドが、精算券にデータを印刷するように前記制御手段を作動させる手段、がら成る手持ち式の精算券印刷発行装置。

(二) 右の精算券印刷発行装置でデータが印刷された、表面に接着剤層が形成されている精算券は、剥離紙を剥離して乗車券にはり付けるものであり、右の「精算券」も、一種のレツテルに含まれるものと認められる。したがつて、引用例二に記載されている精算券印刷発行装置は、本件発明のレツテルはり付け機と同一の技術分野に属するものと認められるので、右の相違点について、引用例二に記載されているものを、斟酌することは妥当と認められる。

(三) ところで、引用例一に記載されている手持ち式レツテルはり付け機と本件発明の相違点(1)、すなわち、「電気エネルギー源を保持する手段」については、引用例二に記載されている「電源」が、本件発明の「電気エネルギー源」に相当するので、引用例二に記載されている右の精算券印刷発行装置の手段(a)と同一のものと認められる。

(四) 相違点(2)、すなわち、「印刷されるべく選択したデータを入力するように前記ハウジングに取付けられたキーボードを備えた手段」については、右の精算券印刷発行装置の手段(b)と同一のものと認められる。

(五) 相違点(3)、すなわち、「印刷位置で一つのレツテルを印刷するための、前記電気エネルギー源によつて付勢される電気的に選択可能な印刷ヘツドを備えた手段」は、右の精算券印刷発行装置の手段(c)に対応し、この手段(c)に記載されている「精算券」及び「電源」は、それぞれ本件発明の「レツテル」及び「電気エネルギー源」に相当するものと認められ、また、右の精算券印刷発行装置の印刷ヘツドも、引用例二の第6図(別紙三第6図)からみて、電源によつて付勢される電気的に選択可能なものであることは明らかであるので、したがつて、右の相違点(3)は、右の精算券印刷発行装置の手段(c)と同一のものと認められる。

(六) 相違点(5)、すなわち、「前記キーボードに接続され、該キーボードによつて入力された選択データのデータ表示を受取り且つ電気的に処理するようになつており、内部に前記選択データを記憶する手段を備えた、データ受取り及び処理手段」は、右の精算券印刷発行装置の制御手段(d)に対応するものであり、この「制御手段」は、本件発明の「データ受取り及び処理手段」と同じように、データを受取り、かつ、電気的に処理するとともに、データを記憶するように機能するものであり、両手段間に実質的な差異があるとは認められない。

(七) 相違点(7)、すなわち、「前記データ受取り及び処理手段と前記電気的に選択可能な印刷ヘツドとを電気的に接続する手段」は、右の精算券印刷発行装置の手段(e)に対応するが、右のように、精算券印刷発行装置の「制御手段」は、本件発明の「データ受取り及び処理手段」に相当するので、両手段は、実質的に同一のものと認められる。

(八) 相違点(8)、すなわち、「前記データ受取り及び処理手段に電気的に接続され、作業者によつて作動されるスイツチを含み、このスイツチの作動毎に前記記憶手段に記憶された選択データの表示を前記印刷ヘツドがレツテルに印刷するように前記データ受取り及び処理手段を作動させる手段」は、右の精算券印刷発行装置の手段(f)に対応するものであり、この手段(f)の「スタートスイツチ」「文字バターンメモリ」及び「精算券」は、それぞれ本件発明の「スイツチ」「記憶手段」及び「レツテル」に相当することは明らかであるので、上記の相違点(8)に記載されているものは、右の精算券印刷発行装置の手段(f)と実質的に同一のものと認められる。

(九) したがつて、相違点(1)(2)(3)(5)(7)及び(8)に記載されている各手段は、引用例二に記載されているものと認められる。

5  次に、特開昭四七-三六九〇〇号公報(以下、「引用例三」という。)(別紙四参照。)には、ラベルの印刷及びラベルの被貼着材への貼着を自動化した自動ラベリング装置において、印刷したラベルを、ラベルはり付け手段に対して、ラベルはり付け位置に前進させ、更に別のラベルを印刷位置に進めるように台紙を前進させる手段が記載されており、引用例三に記載されている「ラベル」及び「台紙」は、それぞれ本件発明の「レツテル」及び「裏当て帯状材」に相当するので、この手段は、右の相違点(4)、すなわち、「印刷したレツテルを前記レツテルはり付け手段に対してレツテルはり付け位置に前進させ、更に別のレツテルを前記印刷位置に進めるように、前記裏当て帯状材を前進させる手段」と実質的に同一のものと認められる。

また、同じく右の引用例三には、ラベル検出器によりラベルの位置を表わす信号を発生し、ラベル印刷貼着制御装置に出力して、該制御装置を作動させ、印刷の前にラベルを印刷器に対して整合させるための位置信号発生手段が記載されている。そして、右の「印刷器」は、本件発明の「印刷ヘツド」に相当するものであることは明らかであり、また、右の「ラベル印刷貼着制御装置」も、相違点(6)に記載されている「データ受取り及び処理手段」と同一の機能を奏するものと認められるので、引用例三に記載されている右の「位置信号発生手段」は、右の相違点(6)に記載されている手段、すなわち、「該データ受取り及び処理手段に電気的に接続され、レツテルの位置を表わす信号を発生し、データ受取り及び処理手段に出力して該手段を作動させ印刷の前に各レツテルを印刷ヘツドに対して整合させるための位置信号発生手段」と実質的に同一のものと認められる。

したがつて、右の相違点(4)及び(6)に記載されている各手段は、右の引用例三に記載されているものと認められる。

6  以上のとおりであるので、引用例一に記載されている手持ち式ラベルはり付け機に、引用例二に記載されている右の「電源を保持する手段(a)」「キーボードを備えた手段(b)」「印刷ヘツドを備えた手段(c)」「制御手段(d)」「制御手段と印刷ヘツドを電気的に接続する手段(a)」及び「制御手段を作動させる手段(f)」、並びに、引用例三に記載されている右の「別のラベルを印刷位置に進めるように台紙を前進させる手段」及び「位置信号発生手段」を適用し、本件発明のように構成することは、格別の創意を要するものではない。そして本件発明が、右の構成を採用することにより格別の作用効果を奏するものとも認められない。

7  したがつて、本件発明は、引用例一ないし三に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるから、その特許は、特許法二九条二項の規定に違反してされたものであり、同法一二三条一項一号に該当する。

なお、請求人(被告)は、本件発明の明細書は、特許法三六条三項及び四項に規定する要件を満たしていないものである旨主張しているが、請求人が指摘しているような明細書の記載不備により、特許法三六条三項及び四項に規定されている要件が満たされないものではないし、また、本件発明が、右のように、特許法二九条二項の規定に違反してなされたために、その特許は無効とされるべきであるので、請求人の右の主張について、これ以上詳細に言及する必要性は認められない。

四  審決の取消事由

1  審決の理由の要点1ないし3、同4(一)は認める。同4(二)は争う。同4(三)及び(四)は認める。同4(五)については、本件発明の「一つのレツテルを印刷する」が精算券印刷発行装置の手段(c)(具体的には「一つの精算券を印刷する」)に対応するとの点及び手段(c)に記載されている「精算券」は本件発明の「レツテル」に相当するとの点は争い、その余は認める。同4(六)及び(七)は認める。同4(八)については、本件発明の「レツテルに印刷する」が精算券印刷発行装置の手段(f)(具体的には「精算券に印刷する」)に対応するとの点及び手段(f)の「精算券」は本件発明の「レツテル」に相当するとの点は争い、その余は認める。同4(九)のうち、相違点(3)及び(8)に記載されている手段が引用例二に記載されているとの点は争い、その余は認める。同5は認める。同6は争う。同7のうち、請求人は、本件発明の明細書は、特許法三六条三項及び四項に規定する要件を満たしているものである旨主張しているが、請求人が指摘しているような明細書の記載不備により、特許法三六条三項及び四項に規定されている要件が満たされないものではないとの点を認め、その余は争う。

審決は、本件発明と引用例二記載の発明との技術分野の差異を看過し、また、引用例二に記載された技術内容を誤認し、更に本件発明と引用例三記載の発明との技術的相違を看過した結果、本件発明と引用例一記載の発明との相違点に対する判断を誤り、本件発明の進歩性を誤つて否定したものであるから、違法として取消しを免れない。

2  本件発明の目的及び作用効果

本件発明の目的は、印刷すべきデータを簡単に選択又は変更できる手持ちレツテルはり付け機を提供するにある。

スーバーマーケツト及びその他の商店において展示販売されている各商品に価格等を示すレツテルをはり付けるのに使用されているこの種既知機械において、レツテルは、巻かれたまだ印刷されていないレツテルから同機械のハンドルと連動させられるレバーの手動操作に応答して機械的に送られて印刷ヘツドを通過し、同ヘツドにおいて印刷操作をリンク連結された印刷要素によつて機械的に印刷されている。この種機械では、印刷データの選択又は変更は印刷ヘツドに設けられた指掛けホイールを手で回すことが必要であり、印刷すべきデータの選択や変更が厄介であつた。

この点、本件発明においては、ハウジングにキーボードが設けられ、同キーボードから印刷すべき価格等の情報を入力することができ、このデータは電気的な受取り処理手段によつて処理(入力・記憶)される。そして、位置信号発生手段によリレツテルが印刷ヘツドに整合されたところで、スイツチを押すことにより、前記受取り処理手段に記憶された情報は、接続手段を経て印刷ヘツドによりレツテルに印刷される。すなわち、本件発明によれば、キーボードから印刷データを入力することができるので、煩雑な指掛けホイールの操作が不要となり、データの選択や変更は極めて簡単に行うことができるのである。

第二に、本件発明においては、印刷ヘツドを電気エネルギー源により付勢される電気的に選択可能なもの、実際上はいわゆるサーモグラフイツク式(感熱式)のものとしたので(特許請求の範囲第五項)、これによりインキが不要になり、インキの漏れやインキの過不足の問題も解消されることとなつた。最近、商品の在庫管理等の目前でラベルにバーコードを印刷することが普通になつているが、従来の機械的印刷ではバーコードに要求される繊細な線の太さ、間隔を正確に制御することはインキの漏れや過不足のため極めて困難であるが、本件発明の構成により、バーコードの印刷に適したラベラーが得られるものである。

こうした構成により、機械及びレツテル材料が便宜に使用され、直ちに選択可能なデータが、かつ予め揃えられたデータも、必要な印刷が非常に容易に実施され、レツテルと印刷されるデータが正確に整合され、機械の使用に関するデータを記憶しかつ表示することができる、というような優れた効果を達成することができる。

また、データ受取り処理手段として、実際は、特許請求の範囲第七項に示すとおり、マイクロプロセツサ(いわゆるマイコン)を用いるのが便利である。

本件発明は、こうしたキーボードを備え、マイコン制御で感熱式印刷を行うことのできるラベラーを可能とした画期的な発明である。

3  取消事由

(一) 本件発明と引用例二記載の発明との技術分野の相違、及び、引用例二記載の技術を引用例一記載のレツテルはり付け機に適用することの困難性(取消事由(一))

(1) 本件発明が対象とする手持ち式レツテルはり付け機は、レツテル(典型的には値札)を大量かつ迅速に商品に貼付するものであるから、貼付するための機構の存在を当然のこととする。一方、精算券は、個別的に発行されるもので、大量迅速な貼付をすることなく、精算券印刷発行装置にはレツテルはり付け機のような貼付機構は不要であり、引用例二においても、この点についての何らの開示も示唆もない。

レツテルはり付け機の技術としては、印刷機構は、本件出願時、機械的な指掛けホイール式のものであればそれを備えるものが存在したが、それが必ずしも必須の構成ではないことは、引用例一の装置にそれが示されていないことから明らかである。これに対し、引用例二の精算券印刷発行装置は、乗り物の車内の検札時の乗越し又は経路変更などに伴う精算券の印刷発行を行うためのものであるから、印刷機構の存在が大前提である。

本件発明にかかるレツテルはり付け機は、一定の長さに区割された各レツテルを有する帯状部材を使用するものである。これに対して、引用例二記載の発明は、剥離紙を裏面に連続的に有する帯状の原紙を使用する。したがつて、引用例二には、レツテル毎、言い換えれば、本件発明のレツテルのように、予め厳格に一定に区割された印刷対象物に印刷するために必要なる機構は不要で、まつたく備えていない。

以上によれば、手持ち式レツテルはり付け機精算券印刷発行装置とは、構成及び機能のいずれもが異なる機械ということができる。

(2) 加えて、従来の手持ち式レツテルはり付け機は電気力を用いず、機械的にはり付け及び印刷の作業を行わせるもので、その製造はいわゆる機械工業界において行われていた。これに対し、引用例二に示された精算券印刷発行装置は、券売機のような自動販売機に印刷機能を付したもので、自動の販売機の延長線上にあるもので、この自動販売機には当初より電気による制御が行われており、電気業界において製造されるものである。

したがつて、手持ち式レツテルはり付け機と精算券印刷発行装置は正に異なる技術分野に属するものである。

(3) 審決は、引用例二の精算券印刷発行装置と本件発明のレツテルはり付け機は同一の技術分野に属する理由として、「右の精算券印刷発行装置でデータが印刷された、裏面に接着剤層が形成されている精算券は、剥離紙を剥離して乗車券にはり付けるものであり、右「精算券」も、一種のレツテルに含まれるものと認められる。」と述べているが、もともと言葉の問題として、レツテルとは商品に貼付する紙札で典型的には値札をいい、精算券が単にはり付け得るようになつているだけでそれに当たるとすることは妥当でない。

また、審決において、引用例二記載の技術を引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に適用するのは、電気的にデータを入力制御し印刷する機構であるが、引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機は、印刷機構については電気力を用いない機械的なものでさえ何らの開示も示唆もないものであるから、引用例二の電気的にデータを入力制御し印刷する機構を引用例一の手持ち式レツテルはり付け機に適用するのは飛躍がある。

(4) そして、本件発明は、引用例二記載の精算券印刷発行装置とは構成も機能も異なる手持ち式レツテルはり付け機において、前記のとおりの構成を採用することにより、四2に記載のとおりの格別の作用効果を有するものである。

(5) 以上によれば、引用例二に記載の技術を引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に適用することは、格別の創意が要求されるものであり、これを要しないとした審決の認定の誤りは明らかである。

(二) 相違点(3)及び(8)に対する判断の誤り(取消事由(二))

審決は、引用例二に本件発明と引用例一記載の発明との相違点(1)(2)(3)(5)(7)及び(8)が記載されていると認定しているが、このうち同(3)及び(8)が記載されているとの認定は誤りである。

すなわち、審決において、引用例一記載の発明との相違点(3)及び(8)である本件発明の構成3及び構成10に対応するものとされた引用例二記載の精算券印刷発行装置の構成は、審決の認定(審決の理由の要点4(一))にかかる手段(c)及び手段(1)である。しかしながら、手段(c)の「一つの精算券を印刷する」こと及び手段(1)の「精算券にデータを印刷する」ことによつて示される動作は、引用例二記載の発明の構成からみて、剥離紙を裏面に有する連続的な帯状の原紙への印刷であり、これは本件発明の構成3にいう「一つのレツテルを印刷する」及び構成10にいう「レツテルに印刷する」で示される、区割が一定に予め厳格に定められているレツテルへの印刷とは異なる。したがつて、引用例二の手段(c)及び手段(1)の構成は本件発明の構成3及び構成10に該当せず、この点が示されているとする審決の認定は誤りである。

(三) 引用例三記載の技術を引用例一記載のレツテルはり付け機に適用することの困難性(取消事由(三))

本件発明及び引用例一記載の発明は、手持ち式レツテルはり付け機に関するものであるのに対し、引用例三記載の自動ラベリング装置は、別紙四の第1図にも明らかなとおり、据置き型のものである。したがつて、引用例三記載の自動ラベリング装置は、手持ち式レツテルはり付け機に比べ、極めて大型でかつ把持部が存在しない等構成も違い、また両者は物品として異なるものである。

また、具体的な使用場所、使用方法をみるに、手持ち式レツテルはり付け機は、スーバーマーケツトその他の商店において店員の手に持たせて各商品に価格を示す接着剤付きレツテルを貼り付けるために用いられるものである。これに対して、引用例三記載の自動ラベリング装置は、商品の集中管理場所に置かれ、そこに大量に存する商品にレツテルを印刷、貼り付けたり、あるいは店頭でのレツテルの貼付けに先立つて大量に印刷しておくという形でむしろ物流の管理の観点から使用されるものである。したがつて、手持ち式レツテルはり付け機とは使用の形態が異なるものである。

更に、本件発明は、ハウジング(構成1)にキーボード(同2)が設けられ、同キーボードから印刷すべき価格等の情報を入力することができ、このデータは電気的な受取り処理手段(同7)によつて処理(入力・記憶)され、位置信号発生手段(同8)によりレツテルが印刷ヘツドに整合されたところで、スイツチ(同10)を押すことにより、前記受取り処理手段に記憶された情報は接続手段(同9)を経て印刷ヘツド(同3)によりレツテルに印刷されるというレツテルはり付け機を構成し、機械及びレツテル材料が便宜に使用され、直ちに選択可能なデータが、かつ予めそろえられたデータも、必要な印刷が非常に容易に実施され、レツテルと印刷されるデータが正確に整合され、機械の使用に関するデータを記憶しかつ表示することができるというような優れた効果を達成した画期的なものである。

したがつて、引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に引用例三記載の技術を適用するのはまさに格別の創意が必要であり、審決の認定は失当である。

(四) 以上のとおり、審決は、右三点の明らかな誤認により、本件発明は引用例一ないし三に基づいて当業者が容易に発明できると結論した違法のものであるから、取消しを免れない。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決を取り消すべき違法はない。

二1  本件発明の目的及び作用効果について

本件発明は、特許請求の範囲第一項(本件発明の要旨)の記載からして、印刷ヘツドがサーモグラフイツク式構成に限定されているものではなく、また印刷態様もバーコード印刷のみに限定されているのではない。そして、ラベルにインキを用いてバーコードを印刷する場合における原告主張の問題点は本件出願前から公知であり、この対策としてインキを使用しない印刷方式を用いること及びこの印刷方式としてサーモグラフイツク式印刷ヘツドを用いることも本件出願前において公知である。

したがつて、本件発明の目的、命題は本件出願前公知であり、また原告の主張する本件発明の効果はサーモグラフイツク式印刷ヘツドをラベル印刷に用いた場合に得られる当然の効果で、本件発明のラペラーにより得られる新規かつ特別な効果ではない。

2  取消事由(一)について

(一) 原告が本件発明と引用例二記載の発明との技術分野の相違として主張するところは、レツテルはり付け機と精算券印刷発行装置とが同一種類の物品ではないというにすぎず、両者が同一の技術分野に属さないという根拠にはならない。すなわち、引用例一は日本分類「一〇一K九四(札はり具)」に分類され、引用例二は日本分類「一〇一K七(切符、有価証券)」に分類されることは、右各公報記載から明らかであり、これによつてこれら両者が日本分類「一〇一K(札)」に属する技術であることは明らかである。原告の主張は、技術分野が各物品毎に独立して別々に存在するという見地から出たもので、物品の種類と技術分野とは概念的に区分が異なるという点を看過している。

原告は、機械工業界に属するレツテルはり付け機メーカーと電気業界に属する精算券印刷発行装置メーカーとでは技術分野を異にする旨主張するが、技術分野は業界によつて概念を定義されるものではなく、「小形紙片に印刷して送り出す装置であつて、この小形紙片が非接着性台紙に仮貼着されており、この台紙を剥離することで対象物へ貼着できるもの」であれば、技術的に同一分野に属することになるというべきである。

(二) 原告は、引用例一のレツテルはり付け機には印刷機構が示されていないから、引用例二の印刷手段を引用例一のレツテルはり付け機に適用するのは不当である旨主張する。しかしながら、本件明細書にも明記されているとおり、この種のレツテルはり付け機において印刷機構の存在することは公知であるから、引用例一のレツテルはり付け機に引用例二の印刷手段を適用するについての問題点はない。

(三) なお、レツテルへの印刷のためにキーボードを用いることは、引用例二に示されているように、公知慣用手段であり、これをレツテルはり付け機に用いてもこれによつて得られる効果は公知慣用手段によつて得られるものにすぎず、本件発明の格別な効果ではない。

3  取消事由(二)について

一つの精算券も一つのレツテルも、印刷される時点における長さは一定であり、印刷ヘツドからみれば所定長さと幅とを有する同一紙面への印刷であることに変わりはない。したがつて、印刷される対象をレツテルと呼ぶか精算券と呼ぶかの別は存在しても、印刷ヘツドの使用目的、作用、効果は同一であり、引用例二の手段(c)及び手段(f)は、本件発明の構成3及び構成10に対応するものである。

4  取消事由(三)について

ラベリング装置もレツテルはり付け機も商品にラベルを貼着する機械であることに変わりはなく、両者の技術的情報は互換性があるものというべきである。すなわち、引用例三において開示されたラベル(レツテル)の送り制御手段は、そのままレツテルはり付け機に技術情報として適用可能なものであり、これはレツテルはり付け機に関する引用例一とラベリング装置に関する引用例三とが同一の日本分類「一〇一K九四」に属することからも明らかである。

原告は、ここでも物品の種類の同一性と技術分野の同一性とを混同しており、その主張はこの混同から出ているものであつて、論拠がない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本件発明の概要

成立に争いのない甲第二号証(本件発明の公告公報。以下、「本件公報」という。)によれば、本件発明は、印刷されるべきレツテルの給源を受けるための装置、印刷ヘツド、前記印刷ヘツドによつて印刷されるべきデータを選択するための装置、及び、選択されたデータを印刷するため、かつ、印刷されたレツテルを使用されるように送り出すことのできる送出し位置へ前記印刷ヘツドから印刷されたレツテルを送るため前配給源から前記印刷ヘツドヘレツテルを送るように作動することのできる送り機構を有するレツテルはり付け機に関するものであること、スーパーマーケツト及びその他商店において展示販売される各商品に価格を示す接着剤付きレツテルをはり付けるのに使用されているこの種既知機械は、印刷すべきデータを選ぶ場合、印刷ヘツドに設けられた指掛けホイールを手で回すことが必要であり、印刷すべきデータの選択や変更が厄介であるという問題点があつたのに対し、本件発明は、印刷すべきデータを簡単に選択又は変更のできるレツテルはり付け機を提供することを目的とし、その目的達成のため、本件発明の要旨のとおりの構成を採用することにより、指掛けホイールの操作が不要になり、データの選択はキーボードのキーの選択により極めて簡単に行うことができるという作用効果を奏するものであることが認められる。

なお、原告は、本件発明の作用効果に関し、本件公報の特許請求の範囲第五項に基づく、印刷ヘツドをサーモグラフイツク式(感熱式)のものとした場合の作用効果、及び、同特許請求の範囲第七項に基づく、データ受取り処理手段として、マイクロブロセツサ(いわゆるマイコン)を用いた場合の作用効果をも主張するが、前掲甲第二号証によれば、本件発明の要旨とする構成は本件発明の明細書の特許請求の範囲第一項に記載されたとおりのものであつて、印刷ヘツドがサーモグラフイツク式(感熱式)のものやデータ受取り処理手段としてマイクロブロセツサ(いわゆるマイコン)を用いたものは、いずれも本件発明の実施態様として記載されている事項にすぎないものと認められるから、原告主張のこれらの作用効果は、本件発明の構成そのものに基づく作用効果ということはできない。

三  審決の取消事由に対する判断

1  引用例一には審決の認定(審決の理田の要点2)のとおりの記載があること、及び、本件発明と引用例一に記載の発明とを比較すると、引用例一に記載されている「把持部」「保持テープ」「ラベル」「ラペル帯状体」「巻上げ体を保持するラベル保持体」及び「枠」は、それぞれ本件発明の「ハンドル」「裏当て帯状材」「レツテル」「複合ウエブ」「レツテル供給ロール体を保持する手段」及び「ハウジング」に相当し、両発明には審決が認定する(1)ないし(8)の相違点(審決の理由の要点3記載)が存在することについては、当事者間に争いがない。

2  取消事由(一)について

(一)  引用例二には審決の認定(審決の理由の要点4(一))のとおりの記載があることについては当事者間に争いがなく、同記載及び成立に争いのない甲第五号証(引用例二)によれば、引用例二記載の精算券印刷発行装置は、乗車券に貼着するための精算券を印刷発行する装置で、非接着性の剥離紙に仮貼着された原紙を、その表面に印刷されるべく選択したデータをキーボードによつて印刷して送り出し、この印刷された原紙を剥離紙より剥離して乗車券に貼着し得るようにした装置であることが認められる。

一方、本件発明は、印刷されるべきレツテルの給源を受けるための装置、印刷ヘツド、前記印刷ヘツドによつて印刷されるべきデータを選択するための装置、及び、選択されたデータを印刷するたあ、かつ、印刷されたレツテルを使用されるように送り出すことのできる送出し位置へ前記印刷ヘツドから印刷されたレツテルを送るため前記給源から前記印刷ヘツドヘレツテルを送るように作動することのできる送り機構を有するレツテルはり付け機に関するもので、同装置は、主としてスーパーマーケツト及びその他商店において展示販売される各商品に価格を示す接着剤付きレツテルをはり付けるのに使用されているものであることは、前記本件発明の概要に認定したとおりである。

両者を対比すると、引用例二記載の装置が印刷の対象とするものは乗車券に貼着するための精算券であり、本件発明の装置が印刷の対象とするものはスーパーマーケツト等の各商品に貼着するための値札のレツテルであり、この点において両者に差異が認められるものであるが、両者は、いずれも、非接着性の台紙に仮貼着された紙片を、その表面に印刷されるべく選択したデータを印刷して送り出し、この印刷された紙片を台紙より剥離して貼着対象物に貼着し得るようにした装置である点では共通するものであつて、少なくともその範囲内では両者の技術は互いに転用が可能であると認めるのが相当であるから、両者は互いに技術の転用し得る余地のない異なる技術分野に属する物品であると断定することはできない。

(二)(1)  原告は、本件発明のレツテルはり付け機と引用例二記載の精算券印刷発行装置とが技術分野を異にする理由として、本件発明が対象とする手持ち式レツテルはり付け機は、レツテル(典型的には値札)を大量かつ迅速に商品に貼付するものであるから、貼付するための機構の存在を当然のこととするが、引用例二記載の精算券印刷発行装置には、レツテルはり付け機のような貼付機構は不要であるから、該機構は存在しない点及び、レツテルはり付け機は、印刷機構を必須の構成とはしないが、引用例二の精算券印刷発行装置は、印刷機構の存在が大前提である点を挙げる。しかしながら、このような構成上、機能上の相違は、レツテルはり付け機と精算券印刷発行装置という物品の相違に基づく全体構成及び全体機能としての相違であつて、両者を技術の転用の可能性という観点からみた場合には、前認定のごとく、両者は、貼付機構以外の点において多くの共通する要素を含む装置であると認められ、かつ、精算券印刷発行装置と貼付機構とは互いに排斥するものではなく、精算券印刷発行装置に適合した貼付機構を備えることも考えられるところであるから、貼付機構の有無のみによつて両者の技術分野の同一性を否定することは相当とはいえず、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、引用例二記載の精算券印刷発行装置は剥離紙を裏面に連続的に有する帯状の原紙を使用し、本件発明にかかるレツテルはり付け機のような予め厳格に一定の長さに区割された印刷対象物に印刷するために必要なる機構をまつたく備えていない点を主張する。前掲甲第二号証によれば、本件公報には「積層されたレツテル及び裏当て両帯状材はレツテル帯状材のみに設けられた弱め線または完全なまたは部分的な横断切断線32によつて総べて等しい長さのレツテル部分に分離される。」と記載されていることが認められ(八欄三七行ないし四一行)、同記載及びレツテルに対する印刷の位置決め手段に関する構成6、レツテルを印刷ヘツドに対し整合させるための位置信号発生手段に関する構成8によれば、本件発明におけるレツテルは、予め一定の長さに切り取られた紙片もしくは一定の長さの紙片に容易に切り取り得る帯状材を予定していると認められるのに対し、前掲甲第五号証及び成立に争いのない乙第四号証(引用例二記載の考案の実用新案登録願書及び同添付の明細書)によれば、引用例二記載の考案の実用新案登録願書添付の明細書の考案の詳細な説明の項には、図面(別紙三と同じ。)の説明として「第3図ないし第5図において……この排出口12には印刷用紙22を切断するためのカツター13が設けられている。」との記載(二頁一五行ないし三頁一行)及び「印刷用紙22はたとえば帯状紙で、……」との記載(四頁二行)、同記載の装置の動作の説明として「印刷が全て終了すると、モータ25は回転を停止され、このとき印刷用紙22は排出口12から定寸法(パターンが印刷された部分)排出された状態となる。ここで、オペレータは片手でカツター13を利用して排出口12から排出されている部分の印刷用紙22を切断することにより、第1図に示すようなフォーマツトの精算券が得られるものである。」との記載(八頁二行ないし九行)のあることが認められ、これら記載によれば、引用例二記載の精算券印刷発行装置にあつては、精算券の原紙は連続的な帯状の原紙で、印刷後に適宜切り取つてこれを精算券の紙片とするものであることが認められる。しかしながら、予め一定の長さに切り取られた紙片に対する印刷も、連続的な帯状の原紙に対する印刷も、印刷に際しての印刷ヘツドからみれば所定の長さと幅とを有する紙面への印刷であることに変わりはなく、ただ、連続的な帯状の原紙に対する印刷にあつては原紙の任意の位置から印刷を始め得るのに対し、予め一定の長さに区割された紙片に対する印刷にあつては帯状に連続したこれら紙片の特定の位置から印刷を始める必要があり、そのための機構を備えることをも要する点に違いがあるものと認められるところ、このような構成の差異は、レツテルはり付け機と精算券印刷発行装置との差異に必然的に伴う差異ではなく、右各構成は、いずれの装置においても適宜採用し得る構成であると認めるのが相当であるから、この点の差異を捕えて技術分野の相違を主張することはできず、原告の同主張も理由がない。

(2)  原告は、更に、両者の技術分野が相違する根拠として、両者の製造業者の属する業界の相違を主張する。しかしながら、昨今の技術の輻奏化、複合化、あるいは企業経営の多角化等を考慮すれば、技術分野がその物品の製造業者の属する業界によつて一義的に定まるものでないことは明らかであり、原告の右主張も採用し得ない。

(3)  なお、原告は、レツテルとは商品に貼付する紙札で典型的には値札をいい、精算券が単にはり付け得るようになつているだけでそれに当たるとすることは妥当でないとして、「精算券」も一種のレツテルに含まれるとした審決の認定を非難するが、右審決の認定の趣旨は、精算券がレツテルであると認定したものではなく、技術分野の異同を検討するにあたつて、「データが印刷され、裏面に接着剤層が形成されており、剥離紙を剥離して対象物にはり付ける」という点においてレツテルと同視し得ることを認定したにすぎないものであるところ、両者をその技術的側面からみた場合にこれを同視することがあながち不当とはいい難いものと認められるから、審決の右認定が不当であるとは認められない。

また、原告は、引用例二の電気的にデータを入力制御し印刷する機構を、印刷機構の開示が全くない引用例一の手持ち式レツテルはり付け機に適用するのは飛躍がある旨主張するが、いずれも成立に争いのない乙第三号証(特公昭四〇-一二三三五号公報)、同第五号証(特公昭四七-一二五〇五号公報)、同第六号証(特公昭四九-三五八七九号公報)、同第七号証(特公昭四九-三五八八〇号公報)、同第八号証(特公昭四九-四二四四〇号公報)、同第九号証(特公昭四六-三二五四五号公報)、同第一〇号証(特開昭四九-二九一〇〇号公報)、同第一一号証(特公昭四九-四六五一八号公報)、同第一二号証(特公昭四九-四六五二〇号公報)、同第一三号証(特公昭四五-六一七七号公報)、同第一四号証(特公昭四八-二八一二〇号公報)、同第一五号証(特公昭五〇-一三九九号公報)、同第一六号証(特公昭五〇-一四九二九号公報)、同第一七号証(特開昭五二-二四七二五号公報)及び同第一八号証(特開昭五二-七〇八〇〇号公報)によれば、手持ち式レツテルはり付け機に印刷機構を設けることは周知慣用の技術手段であると認められ、引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に印刷機構を設けること自体、格別の創意、工夫を要する事柄とは認められないから、引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に印刷機構を設けることを前提に、電気的にデータを入力制御し印刷する機構が示されている引用例二の印刷機構を適用することは、当業者が容易になし得る事柄であると認めるのが相当である。

(4)  原告は、本件発明の奏する作用効果が格別顕著である旨を主張するところ、前認定の本件発明の概要によれば、本件発明の奏する作用効果は、本件発明の要旨のとおりの構成を採用することにより、印刷ヘツドに設けられた指掛けホイールを手で回すことが必要であり、印刷すべきデータの選択や変更が厄介であるという問題点を解消し、印刷データの選択はキーボードのキーの選択により極めて簡単に行うことができるようにした点であると認められる。

しかしながら、引用例二には、本件発明の装置が印刷の対象とするスーパーマーケツト等の値札のレツテルとは異なる精算券に関するものではあるが、非接着性の剥離紙に仮貼着された原紙に選択したデータをキーボードによつて印刷することが開示されていることは前認定のとおりであるところ、このような公知技術の採用によつて、印刷データの選択はキーボードのキーの選択により極めて簡単に行うことができることは明らかであり、してみると、本件発明の奏する前記作用効果が右公知技術に比べて格別顕著である点をみいだすことはできない。

よつて、この点に関する原告の主張も理由がない。

3  取消事由(二)について

原告は、引用例二の手段(c)及び手段(f)の構成は引用例一記載の発明との相違点(3)及び(8)である本件発用の構成3及び構成10に該当するものではない旨主張し、その理由として、手段(c)及び手段(f)によつて示される「精算券を印刷する」及び「精算券に……印刷する」という構成は、剥離紙を裏面に有する連続的な帶状の原紙への印刷であり、本件発明の構成3「一つのレツテルを印刷する」及び構成10にいう「レツテルに印刷する」で示される、予め一定の長さに区割されているレツテルへの印刷とは異なる旨主張する。

しかしながら、引用例二の手段(c)及び手段(f)における精算券が本件発明の構成3及び構成10におけるレツテルに相当するとの点を除き、それぞれの構成に差異がないことは原告も争わないところであり、本件発明のレツテルも引用例二記載の発明の精算券も、「データが印刷され、裏面に接着剤層が形成されており、剥離紙を剥離して対象物にはり付ける」点において技術的に同視し得ることは前認定のとおりである。なお、本件発明におけるレツテルは、予め一定の長さに切り取られた紙片もしくは一定の長さの紙片に容易に切り取り得る帯状材、すなわち一定の長さに区割されたものであると認められるのに対し、引用例二記載の精算券印刷発行装置にあつては、精算券の原紙は連続的な帯状の原紙で、印刷後に適宜切り取つてこれを精算券の紙片とするものであるが、予め一定の長さに区割された紙片に対する印刷も、連続的な帯状の原紙に対する印刷も、印刷に際しての印刷ヘツドからみれば所定の長さと幅とを有する紙面への印刷であることに変わりはないことも前認定のとおりであるから、この点に技術上の本質的差異を見い出すことはできない(もつとも、連続的な帯状の原紙に対する印刷にあつては原紙の任意の位置から印刷を始め得るのに対し、予め一定の長さに区割された紙片に対する印刷にあつては帯状に連続したこれら紙片の特定の位置から印刷を始める必要があり、そのための機構を備えることをも要する点に違いがあるものと認められることは前認定とおりであるが、これら紙片の特定の位置から印刷を始めるための機構である本件発明における構成8の点は、本件発明と引用例一記載の発明との相違点(6)に該当するところ、同相違点に記載されている手段は引用例三に記載されていることについては、当事者間に争いがないのである。)。

してみると、本件発明の構成3及び構成10における「レツテル」と引用例二の手段(c)及び手段(f)における「精算券」とは、それ自体の名称及び使用目的は異なるものの、それぞれの構成にあつて印刷ヘツドとの関係における使用目的及び作用効果の点では実質的に同一であると認めるのが相当であり、引用例二の手段(c)及び手段(f)の構成は本件発明の構成3及び構成10に実質的に該当すると認めることができる。

したがつて、本件発明と引用例一記載の発明との相違点(3)及び(8)の構成(本件発明の構成3及び10)が引用例二に記載されているとの審決の認定には、原告が主張するような誤りはない。

4  取消事由(三)について

引用例三には審決の認定(審決の理由の要点5)のとおりの記載があること、及び、同引用例には本件発明と引用例一記載の発明との相違点(4)及び(6)である本件発明の構成6及び8が記載されていることについては当事者間に争いがない。

原告は、引用例三記載の自動ラベリング装置は、本件発明及び引用例一記載の発明に比べ、極めて大型でかつ把持部が存在しない等構成が違い、また、使用の形態も異なるものであり、更に、本件発明の奏する画期的な作用効果を勘案すれば、引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に引用例三記載の技術を適用するのは格別の創意が必要である旨主張する。しかしながら、本件発明、引用例一及び引用例三に関する前記載によれば、本件発明及び引用例一のレツテルはり付け機も引用例三の自動ラベリング装置も商品にレツテルを貼り付ける装置であることに変わりはなく、したがつて、これらは同一の技術分野に属するものであると認められるから、これらの各技術は互いに転用し得るものであると認めるのが相当であり、引用例三記載の自動ラベリング装置が本件発明及び引用例一記載の発明と比べて構成及び使用形態が異なるとしても、両者の技術の転用が直ちに困難となるものではない。また、本件発明の奏する作用効果も引用例二に示された公知技術に比べて格別顕著である点をみいだすことはできないことは、前認定のとおりである。そして、本件において提出された証拠によるも、引用例一に記載の手持ち式レツテルはり付け機に引用例三に示された「別のラペルを印刷位置に進めるように台紙を前進させる手段」及び「位置信号発生手段」を適用することが困難な理由は見当たらない。

したがつて、引用例一記載の手持ち式レツテルはり付け機に引用例三記載の技術を適用し、本件発明のように構成することは、当業者が容易になし得ることというべきである。

5  以上によれば、審決の取消事由に関する原告の主張はいずれも理由がなく、本件発明は引用例一ないし三に基づいて当業者が容易に発明できるとした審決の認定、判断に違法は見当たらない。

四  よつて、原告の請求は理由がないからこれを衆却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めにつき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、同法一八二条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙一

<省略>

別紙二

<省略>

別紙三

<省略>

別紙四

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例